本研究は予後不良な卵巣がんの発生・進展機構を解明し、様々な分子標的治療薬の抗腫瘍効果を正常な免疫を持つ動物モデルで予測するために、卵巣がんが自然発症する新規の遺伝子改変モデルマウス(GEMM)の作製を目指していた。従来のコンディショナルノックアウト法はマウスの交配を要するため、莫大な費用と時間を要し、しかも低効率であるため広く汎用することは容易ではない。一方、共同研究者McGill UniversityのDr. Yojiro Yamanakaらが報告した手法を応用した我々の新規方法は、電気穿孔法を用いたIn vivo transfection法にて卵管上皮への遺伝子導入し卵巣がんGEMM作製であり、これが確立されたら安価かつ再現性も高く、画期的な手法となると考えた。 しかしながら、当初の計画のように卵管上皮へ電気穿孔法にて標的遺伝子をノックアウトまたは標的遺伝子を高発現させるプラスミドをIn vivoにて導入させるのは非常に効率が悪いことに直面した。そこで研究計画を変更し、我々が既に樹立している数十種類の患者由来腫瘍卵巣同所移植マウスPDXモデルを用いて、PDX腫瘍を3次元オルガノイド培養ならびにEx vivoでのExplant培養にて治療薬の抗腫瘍効果を検討するモデルを確立した。我々の卵巣がんPDXモデルマウスは80%以上の高確率で樹立することが可能であり、一度確立すればマウス体内にて継代し腫瘍を理論上無限に増幅することが出来る。本研究成果により、大量のPDX腫瘍片を用いて多くの候補薬の抗腫瘍効果をIn vitroの系にて確認することで、In vivoの系よりも非常に安価で効率の良い投薬実験をすることが可能となった。 今後はPDXマウスモデルと3次元オルガノイド培養、Ex vivoでのExplant培養を用いて多くの婦人科がんの新規治療開発に応用していく。
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