本研究は、マウス歯胚の器官培養法を応用することで、抗がん剤の発生器官に与える影響を解析するシステムを構築することを目的として研究を開始した。 本年度は主に、昨年度作製したシクロフォスファミド (CPA)添加器官培養モデルを用いて、抗がん剤副作用回避方法の検討を行った。これまでの研究で判明した歯の発生に重要と思われる様々な増殖因子を、本モデルに添加することで、歯胚形成阻害の回避を試みた。しかしながら、発生に関わる増殖因子群による副作用回避は認められなかった。 臨床では、抗がん剤による皮膚や爪の障害を抑制するため、手指の冷却が行われており、一定の効果があることが認められている。そこで、器官培養モデルを用いて、低温による副作用回避を試みた。CPAを添加する最初の3日間のみ25℃の低温刺激下で培養を行った結果、正常な歯胚形成が認められた。そこで、CAGE法を用いて網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、CPA添加時に低温培養を行った歯胚において、G1/S細胞周期チェックポイントに関連する遺伝子の発現低下を確認した。さらに、歯原性上皮細胞株を用いて解析を行ったところ、Rbのリン酸化が低温によって阻害され、G1/S細胞周期チェックポイントを乗り越えられずに、G1期で細胞周期が停止している可能性が示された。低温培養による細胞周期阻害により、CPAの架橋反応による細胞障害を防ぐことができることが示唆された。これらの結果から、CPAの臓器形成に与える副作用は、低温に維持することで回避できる可能性が考えられた。本研究は、抗がん剤の副作用を検出および評価する新たなスクリーニングモデルの構築とに寄与すると考えられる。
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