研究課題/領域番号 |
20KK0029
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 廉孝 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90708398)
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研究分担者 |
井奥 成彦 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (60184371)
谷ヶ城 秀吉 専修大学, 経済学部, 教授 (30508388)
山本 裕 獨協大学, 経済学部, 准教授 (10550113)
三科 仁伸 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (10825152)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | 日本経済史 / 植民地 / 台湾 / 朝鮮 / 満洲 / 植民地貿易 / 一次産品 / インフラ |
研究実績の概要 |
本研究課題の1年目にあたる令和2年度は,本研究課題の遂行に必要な史料・データの収集に力点を置いた。但し,COVID-19の拡大で予定していた全ての海外史料調査を断念せざるを得なかった。そこで,予定を変更し,日本国内所在の史料調査を進めた。研究代表者と各研究分担者が実施した作業は以下の通りである。 研究代表者(前田)は「植民地米の流通拡大と市場の変容:大阪堂島米穀取引所を事例に」を課題とし,中核の史料となる堂島米市場文書(関西大学所蔵)は既に収集済である。その分析過程で,同取引所が戦前期日本における多数の取引所のなかで占めた位置を確認する必要性を認識した。そこで,古書店から史料を購入し,全国取引所の取引データを網羅的に収録したデータベース(1918-43年)の作成を進めた。 研究分担者(三科)は「植民地陸運会社の資金調達:内地資産家による投資活動」を課題とし,国立公文書館と地方資産家所蔵の史料調査を進めた。研究分担者(井奥)は「内地における植民地産大豆・小麦の取引と消費:醤油醸造業の原料調達を事例に」を課題とし,小栗家文書・末廣史料(愛知県)で史料調査を実施した。研究分担者(谷ヶ城)は「内地・台湾間の海運網拡大と商社」を課題とし,両大戦間期海運業の分析に必要な基礎的史料を古書店から購入した。そして,本史料の分析から内地・台湾間の海運網が拡大していく過程(物流の量的な変化)と商取引のあり方が質的に変化する過程(商流の質的な変化)を関連付ける分析の方策を検討した。研究分担者(山本)は「満洲炭の日本勢力圏内流通:内地・台湾・朝鮮市場内取引を事例に」を課題とし,分析に必要な日本語・中国語文献の収集を進めた。そして,中国語文献については難解な部分を中国語ネイティヴと解読した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は(1)植民地貿易の実態について統計資料から定量的把握を試みた既往研究に対して,内地産品・植民地産品間の品質的差異に着目し,植民地貿易の量的拡大と商品市場の質的変容を相互的かつ連鎖的に継続する循環構造として理解する,(2)「植民地地域史」的な視角から考察を進めた既往研究に対して,各植民地のインフラ政策が当該地・内地間のみならず植民地相互間の貿易に及ぼした効果まで検討し,植民地貿易のネットワークが変容した過程とそれに連鎖して内地・植民地間の貿易が変容した過程を動態的に理解する,(3)各植民地内における個別の商品・政策に着目した植民地経済史もしくは数量的把握を重視した植民地貿易史の既往研究に対して,海外共同研究者の協力の下で台湾・韓国・中国における1次史料の収集とそれに依拠した考察を展開し,実証水準の上昇と戦前期内地・植民地経済間における構造的連関を提示することが目的である。したがって,本研究課題で海外所蔵史料の調査は根幹を成すが,COVID-19の影響で海外史料調査は全て断念せざるを得なかった。そこで,令和2年度は国内所蔵史料の調査と国内古書店からの史料購入を先行した。こうした作業によってCOVID-19収束後に海外史料調査をスムーズに開始できる入念な準備ができた。以上を総合し,現時点では「おおむね順調に進展している」と判断する。但し,次年度の令和3年度においてもCOVID-19の影響で海外史料調査を実施できない場合には,進捗の遅滞が生じる可能性を否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は国外渡航再開後から速やかに海外史料調査を開始し,本研究課題の遂行に必要な史料・データを収集する。具体的な調査先は,以下を予定している。 台湾:国史館台湾文献館・国立台湾大学図書館・中央研究院台湾史研究所・台北大学図書館・国立台湾図書館・国家档案管理局国家档案閲覧中心/韓国:韓国政府記録保存所・ソウル大学校図書館・延世大学校図書館・啓明大学校図書館/中国:吉林省社会科学院満鉄資料館・長春市立図書館 なお,上記調査先のうち国史館台湾文献館・中央研究院台湾史研究所は一部の史料をオンライン公開している。そこで,国外渡航再開前はオンライン公開済の史料を優先的に収集する。 上記史料調査の成果を踏まえつつ,令和3年夏頃には台北大学で海外共同研究者も交えたセミナーの開催を予定している。本セミナーで本研究課題の研究代表者・研究分担者は令和4年7月にパリで開催予定のWorld Economic History Congress(WEHC)(セッション採択済)へ向けた準備報告をする。以上のセミナーは対面で実施できない場合もオンラインで開催する。そして,相互に研究進捗を把握し,建設的な議論を交わしたい。こうしたセミナーでの議論を踏まえ,令和3年度末までに研究代表者・研究分担者はWEHC参加に必要なディスカッションペーパーの執筆を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で令和2年度は国内の史料調査・学会出張,海外の史料調査が全てキャンセルとなった。それゆえに,旅費の支出がゼロとなった。また,史料調査が実施できなかったために調査に必要な資材の購入も見送った。以上の理由から物品費の支出額も予定額を大幅に下回った。次年度使用額はCOVID-19収束後,当初の計画通りに適切に執行する予定である。
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