本研究で開発された個人用知的移動体AT(Attentive Townvehicle)は、搭乗者である人間や、自分をとりまく環境に適応し、個体間通信によって協調的に動作可能な個人用の乗り物である。ATに乗り込むことによって、実世界状況や文脈に合わせて、その時点で最適な情報サービスを受けることができる。具体的には、博物館や美術館などの屋内施設において、移動体の現在位置に応じた情報を施設側が提供できると同時に、個人の過去の体験履歴を利用して、特に興味を持つ情報を自動的に取捨選択して提供することができる。 ATの最大の特徴は、全方位に平行移動できることである。また、全方位を同時に計測するレーザーレンジセンサーを装備することで、任意の方向から接近する障害物を早期に検出できる。これによって、障害物を柔軟に回避し、安全に走行することができる。しかし、安全な移動のために、移動体そのものに実装できる機能では、センサーの死角からの接近に対処できないなど、安全性を確保するのに十分ではないため、移動体を取り巻く環境に何らかの工夫を施して、移動体の機能を拡張する必要がある。そこで、本研究では自律移動が可能な無人移動体と連携・協調することで有人移動体の安全性を向上させる仕組みを実現した。これは、個人用知的移動体のセンサーの死角を補完するために、小型無人移動体(以下では、SUV : Small Unmanned Vehicleと呼称)を用いる仕組みである。ATとSUVを連携・協調させることで、移動体単体では実現が困難であった、安全性を飛躍的に向上させる仕組みを実現した。この仕組みは、SUVが自律的に周辺環境の地図を作成する機能、ATとSUVが自己位置推定をして、お互いのセンサー情報を統合する機能、ATが自動走行を開始するとSUVがその経路を先回りして死角領域をセンシングすることで事前に安全確認をし、ATがその情報に基づき、自動走行の経路を動的に変更するなどして可能な限り安全に目的地に移動する機能から成る。SUVは周辺環境のセンサー情報に基づいて3次元地図を自動生成することもできる。また、本研究では、搭乗者の手の動きをトラッキングし、そのパターンによって移動体の速度・方向・回転を制御する手法を実現した。さらに、ジェスチャによる大まかな指示を移動体のセンサー情報で補完し、周辺の障害物を避けつつ指定された動きをする、ジェスチャ安全走行と呼ばれる仕組みを実現した。このような仕組みによって、人間を身体的および情報的に拡張することができると思われる。本研究の成果は、知的移動機械の研究開発および実用化を促進させ、高齢者やハンディキャップを持つ人たちが自立して生活できる安全で安心な社会の実現に貢献する。
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