21年度の研究実績の概要は以下の通りである。 民事法グループは、CSRと類似の思想を、古い制度、たとえば16世紀ドイツのライヒ条例やゲルマン法的な諸規制の中にも見いだした。(1)所有権だけではなく、売買、賃貸借、雇用や団体の規制においても、社会的責任や公共的性質を強調するものがあること、(2)こうした規制が、契約自由の時代に捨象されたことによって、企業と取引の自由が確立し、その反面、その法律外の規制として、新たな概念が必要となること、(3)CSRを企業による恩恵の次元とする思想に変革を迫るものであることなどが明らかになった。 企業法グループは、本研究の準備的作業と位置づけられる野田博「社会的責任を意識した企業活動の拡大・支援と法」川村正幸先生退職記念論文集『会社法・金融商品取引法の新展開』355頁以下所収(中央経済社2009.3)を出発点に、CSRの定義・CSRへのアプローチの再考を試み、「CSRの拡大・支援と法」という問題意識から、株式会社を非営利事業に活用するための解釈論の提示などの成果があった。 労働法グループは、(1)ワーク・ライフ・バランス、(2)労働者派遣に焦点を当て、ヨーロッパ諸国におけるCSRに関する理論的・制度的な最新の動向について調査・研究を行うと同時に、制度比較を通じて、再度わが国における(1)(2)の問題点を明らかにし、その改善策について検討した。 環境グループは、化学物質規制などを素材としながら、企業と国家との責任分担のあり方を検討してきた。特に9月にドイツにて、ドイツやEUの最新の文献調査を行い、化学物質規制などに関して、多くの資料を収集した。現在それらの分析を進めており、各国の動向をにらみながら、論文に取りまとめる準備をしている。 また、2月には岩倉秀雄氏(MCビジネスサポート株式会社常務取締役)による講演とCSRの実態把握・CSRを支援する社会システム構築の観点からの研究会を開催した。
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