研究概要 |
本研究は,ICF理念に基づく教育実践の在り方として,当事者の主体性を反映した支援目標設定という中核的課題の解決へ向け,各種障害事例への適用と実践的検証を通した最適な教育活動を進め得る「個別の教育支援計画」の体系的実践モデルの構築を目指した.21年度の成果から,多くの特別支援学校では当事者(対象児と保護者)の思いやニーズが聴取されるものの,これらとは無関係に教育支援目標が決定され,これに基づく支援内容と方法が企画・実施される現状があり,この事の学習効果への影響が明確になった.ICF理念の中核をなす「主体性尊重」と支援乖離の原因と学習への影響を具体的に示した.このため,22年度は『ニーズを踏まえた教育支援目標の設定過程』に焦点化し,「授業分析情報管理システム(21年度導入)」により蓄積した各種障害事例の形成的評価資料を遡及的に分析した.結果,教育支援目標設定には,対象児のニーズのみならず,教師の要求として設定した課題であっても,「具体的な目標」に対する対象児の「既有知識(目標事態に関する知識とその内容)」と「自己認識(自分に関する知識とその内容)」を把握する実態把握が不可欠と分かった.加えて,生活機能モデルが示唆する能力観,すなわち能力発揮の流動性と人的・物的環現要因との関連が示された.特定能力を「普遍的」に捉えることが危惧された. 23年度(最終年度)は,過去2年間の成果を踏まえ,各事例での特定具体の学習内容に関する「既有知識」と「自己認識」を聴取・観察捕捉し,この両者の力動的関係から「自己効力感」を推定しての内容設定と支援を企画し実施した.その結果,対象児の目標に対する既有知識と自己認識を修正・更新することに有効であった.これより,目標設定過程で備えるべき要件とその手続きが明確化し,かつ実態把握と連動した形成的評価の観点をも呈示し得る「教育支援計画」として実践モデルを蓄積・体系化できた.他方,体系化モデルを教育活動や生活の広範囲の局面,多様な対象児へと適用・汎用化するためには,教育・生活実践を支える教員組織や時間・空間運用等の学校運営の在り方に関する新たな課題が抽出された.ICF理念に基づく教育実践を支える学校組織と運用の整備が不可欠である.
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