研究概要 |
今年度は,ケンブリッジのニュートン数理科学研究所のプロジェクト研究"Npn-Abelian Fundamental Groups in Arithmetic Geometry"に参加し,研究打合せや情報収集するとともに,長年の懸案であった楕円曲線マイナス1点の基本群に生じるガロア表現(ないしモノドロミー表現)に対して,射影直線マイナス3点の基本群における伊原級数(普遍ヤコビ和級数)の類似を構成する問題に一定の結論をまとめることに成功した.この問題の萌芽は1984年のS. Blochの示唆(Deligneへの手紙)に発祥し,これを継承した1990年代前半の角皆宏・筆者の研究(いずれも1995年に発表)を発展させることにあり,今回のポイントは,これまで楕円曲線の定義体に無限個の等分点の座標を添加した体の上でしか定義できなかった級数表現を,楕円曲線の定義体そのものの上に降下する自然な関数の系列を導入し定量的にアプローチする手段を確立した点にあり,とりわけこれらの明示公式を1995年の筆者の論文の公式を精密化する形で拡張できた点にある.このことから複素普遍楕円曲線のモノドロミー表現に適用することで,一般デデキント和との関連も明らかにすることが出来た.以上の成果は,"On arithmetic monodromy representations of Eisenstein type in fundamental groups of once punctured elliptic curves"というプレプリントにまとめ,京都大学数理解析研究所のPreprint Series (RIMS-1691)として発表した.またケンブリッジでは,とりわけF. Pop, L. Schnepsと綿密な打合せをして,京都大学の玉川安騎男氏・星裕一郎氏とともに企画する2010年10月に予定している研究集会および合宿型セミナーのための準備を進めることが出来た.また年度末には,研究分担者の角皆氏と岡山大学において研究打合せを実施し,筆者と角皆氏と安田正大氏との遠アーベル幾何に関する共同研究において重要な役割を果たしたカルダノ・フェラーリ写像の一般化に向けた情報収集について報告していただいた.
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