前年度までのモデル化合物を使用した実験結果を高分子リグニンで実証するために、木材から抽出した磨砕リグニン(MWL)をイオン液体で処理しその構造変化を明らかにした。MWLの分子量はイオン液体処理時間が延びるに従い減少した。またその減少にともないMWL中のユニット間の主要結合様式であるβ-O-4結合が減少すると共にC6-C3型エノールエーテル構造が形成されることが各種NMR測定により明らかにした。またその分解速度が、リグニンの立体構造により異なることも明らかになり、モデル実験で明らかにしたリグニンのイオン液体中での反応機構が高分子リグニンにも当てはまることを実証した。またこの他に、イオン液体中ではベンジルカルボニル基を持つ部分構造の分解速度が非常に速いことが明らかになった。これらの結果から、イオン液体中でのリグニンの分解はアルカリ条件下での分解と類似した機構で進行することが推測された。そこでリグニンモデル化合物およびMWLを1Mの水酸化ナトリウムで加熱処理し、リグニンのアルカリ条件下での分解機構を再検討した。リグニンのイオン液体中における分解中間体であるC6-C3型エノールエーテル化合物は、イオン液体中およびアルカリ条件下で同じ分解物を与えた。しかしながら、C6-C3型エノールエーテル化合物の生成は、リグニンモデル化合物、MWLのどちらのアルカリ分解でも確認できなかった。このことから、イオン液体中で起こるリグニンの分解は、既存のアルカリ条件下とは異なった機構で進行することが明らかになった。
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