研究概要 |
統計的多変量解析の出発点は,J.WishartによるいわゆるWishart分布の一般形の導出の成功においてである.この結果は,Siegelにより導入された多変量ガンマ関数へと発展し,数論においても重要な役割を果たすものである.また,Wishart分布は,大規模ランダム行列理論においても中心的なモデルのひとつである.多変量解析の出発点であるWishart分布は,統計的多変量解析の理論において果たした役割はいうに及ばず,数論や理論物理等において分野横断的に研究対象とされる素材であり,この分布の拡張とこの分布を基にした新たな統計的最適理論を古典的な観点を超える形で研究を進めた.さらに,科学技術の急速な発展により,遺伝学研究におけるマイクロアレイデータ,量的形質座位の解析,蛋白・プロテオーム解析,金融工学における株値データ,移動通信やSAR(synthetic aperture radar system)データの解析,顔認証システムにおける画像データのような新しいタイプのデータ(標本数よりもデータの次元数がより高い)に対する統計モデリングと推測手法の理論の本質的な展開(古典的な枠組みを超えたもの)の必要性を鑑み,標本数よりもデータの次元数がより高いタイプのデータに基づく具体的な問題に対する具体的な解析手法の理論の研究を進めた.とくに,本年度は,高次元データの設定のもとでのWishart分布のスケール行列の推定問題おける最適理論の研究を大きな成果を得た.標本数が変数の次元より小さいときには,素朴な推定量である経験共分散行列は、正則ではなくなり、推定量としての安定性を失う.この欠点を回避するための新たな推定量として,経験共分散行列と単位行列の一次結合の形の推定量を新たに提案したある推定量のクラスのリスク関数の不偏推定量を導出することで、一次結合の係数を適切に求めることができた.さらに,数値実験により,提案した推定量のリスクを具体的に調べた.
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