研究概要 |
本研究の目的は,シューズソールの圧縮変形特性による身体運動に対する影響を定量化可能なシューズ-人体連成系における動力学的分析手法を考案し,この手法を用いてシューズの機能を定量的に抽出することである. まず,シューズのモデル化において,ソールの粘弾性特性の同定については,回転アームとシューズ接触部からなる衝突実験装置を作製して,シューズソールとの衝突実験を行い,その際,衝突部上部に設けた加速度計の情報と,接触部の換算質量からシューズとの衝突力を推定可能とした.そして,粘弾性トラス要素からなるソールの有限要素モデルとシューズ衝突装置の動力学的シミュレーション結果が実験における測定値と合うようにして,ヒューリスティックにシューズ粘弾性特性の同定を実現した. 次に,矢状面における全身の運動方程式と,上記同定によって得たソールの粘弾性方程式とを連成して分析することによって,地面反力へのシューズソール各部位の弾性力および粘性力の貢献,ならびに,シューズソール各部位の弾性および粘性のそれぞれに起因するトルクによる身体推進および身体支持に対する貢献を求めることによって,シューズ各部機能の定量化を実現した. そして,分析の結果,たとえば,前中足部接地タイプの被験者において,地面反力の鉛直成分には,接地直後を除けばシューズ前部の弾性力が大きく正に貢献すること,また,地面反力の水平成分には,接地時中盤に弾性力が負に粘性力が正に貢献することがわかった.さらに,関節トルクによる貢献を定量化した結果,身体の支持には,シューズの弾性力に起因する足関節および膝関節トルクが大きく正に貢献するのに対して,粘性力に起因する膝関節トルクは負に貢献すること,また,身体の推進については,弾性力に起因する膝関節トルクが大きく負に貢献するのに対して,粘性力に起因する膝関節トルクが正に貢献することなどを明らかにした.
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