22年度後半から脳の言語処理過程に着目したonline実験研究を計画しているため、まず、日本語児および同大人を対象とした、表層照応が関わると考えられる格標識付stripping構造削除文等を用いたoffline実験をとりまとめた。 このoffline実験については、投稿先の雑誌から加筆・修正が求められたため、査読者のの提案に従い、格標識付stripping構造を用いた追加の実験を行った。具体的には、格標識付stripping構造が、Fukaya & Hoji(1999)等や私の主張通り、LFでの統語的コピー操作を伴う表層照応の例であるならば当然予測される分布が観察されるかどうかを、3要因・変数((1)裸名詞句がrelational vs. non-relationalであるか、(2)裸名詞句vs.「自分」を伴った名詞句であるか、(3)格標識付stripping構造の基礎的知識を調査する予備テストにおいてpass vs. failであるか)が関わった場合について検証した。特に、(2)については、日本語の裸名詞句の場合、relational名詞句の場合は、音声上有形の束縛変項(例えば、「自分」)が存在しなくとも、不定解釈とは区別される変項解釈が可能であることを出発点とし、日本語を対象とした研究でなければ検証できない点についても迫った。 主な結果として、(1)については、大人も子供も同様に、裸名詞句がrelationalである場合、sloppy解釈をすることが明らかとなり、裸名詞句がnon-relationalな場合とは統計上有意な差が見られた。このことにより、Partee(1987)の主張するimplicit variableの考えに経験的証拠を与えることが出来た。(2)については、大人も子供も同様に、先行詞が量化詞である場合も、「自分」を含む名詞句が関わる場合とimplicit variableが関わる場合において有意な差もなく、束縛変項解釈をすることができた。
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