2つのofliine実験をとりまとめたのもののうち、日本語児および同大人を対象とした、「だって」を含む文の含意計算に関わる論文は、査読者からの提案に従い、加筆・修正をしたものが24年4月に出版された。もう1つの、同対象とする、格標識付stripping構造削除文を用いた実験研究の論文も、同様に加筆・修正され、24年5月にオンライン版に掲載され、9月に出版予定である。 具体的には、後者の論文では、裸名詞句がnon-relationalである場合と比較し、裸名詞句がrelationalである場合に統計上有意な差でスロッピー解釈を大人、子供ともすることを示し、Partee(1987)の主張するimplicit variableの考えに経験的証拠を与えることとなった。また、「自分」を含む名詞句が関わる場合には、先行詞が指示名詞句の場合も量化詞名詞句の場合も、日本語児が束縛変項解釈ができることが明らかとなった。後者の結果は、日本語児がスロッピー解釈を本当に出来るかどうかについて先行の言語習得研究において明らかでなかったことより、意義深い。(前者の論文については、紙幅の都合、略。) onlineのERP実験については、日本語において表層照応が関わると考えられる格標識付stripping構文を用いて実験を行った結果、適格文呈示の場合と比較して、逸脱文呈示の場合に、P600と考えられる成分が観察された。一方、深層照応が関わると考えられる「そうす(る)」文を用いた実験を行った結果、同目的語条件文呈示の場合と比較して、異目的語条件文呈示の場合に、N400と考えられる成分が観察された。このことにより、日本語において表層照応が関わる文の処理過程において、統語的処理が関わること、しかし、深層照応が関わる文の処理過程においては意味的処理が関わることを示唆する結果が得られた。このことは、表層照応・深層照応の区別について論じたHankamer & Sag(1976)の考えや、日本語における同様の区別について論じたHoji(2003)等の考えを支持するものである。ERP成分の点から表層照応や深層照応が関わる文の処理過程が異なることを示唆するこの結果は、当該理論に重要な貢献であろう。表層照応については、23年11月学会発表とともに、同予稿集に掲載された。実験全般については、24年7月に学会発表とともに、同予稿集に掲載予定である。
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