(1)研究開始の年である平成21年度は、国際条約に基づく責任制限の実施にかかる手続に関する各国法制の多様性の調査を行った。特に、(i)責任制限手続きに関する管轄(管轄の集中、本案の管轄との関係等)、(ii)責任制限のための基金の形成の要否(基金の形成を不要とする法制も存在する)、(iii)責任制限手続開始のための期間制限の有無、(iv)責任制限手続開始に対する異議申立制度、(V)責任制限の効果(特に担保の解放をめぐる取り扱い)、(vi)責任制限手続への参加の期間制限と時期に遅れた参加の効果、(vii)制限債権の確定手続・債権の存否・額に関する異議の制度、(viii)責任制限手続と債権の本案手続の関係を中心に、各国法制の異同を検討した。さらも条約に基づかない責任制限制度を有する国(アメリカ合衆国等)の法制度の調査にも着手した。少なくとも、上記諸論点のうち、(iv)、(vi)、(vii)に関して、無視できない重要な違いが存すること、わが国の制度が、必ずしも国際的な主流とは言い難い場面もあること(たとえば(vii))が分かった。 (2)一般的な判決の承認・執行制度に関する各国の法制の調査、特定の条約(たとえば油濁責任に関する民事責任条約等)に基づく地域的な経済統合(EU)内部での判決の承認・執行と、各国の責任制限手続上の取扱い(制限債権の確定手続・債権の存否・額に関する異議の制度との関係)を調査・検討した。 (3)(1)(2)の調査を行う過程において、責任制限手続の対象である債務者が倒産手続にこうした場合の扱い、海事先取特権(maritime lien)の責任制限手続上の扱いといった、興味深い論点が存在するかことが分かった。この点は、平成22年度の調査項目に追加することとしたい。
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