本研究は、明治三十年代から四十年代にかけて、「国語科」における文学教材の導入過程を、美的経験による品性の陶冶を目指した「ヘルバルト派教育学」との関わりから明らかにし、そのようにして成立・展開した明治期国語教育(就学前教育も含む)が国民意識の形成に与えた影響について検証することを目的としている。本年度は以下の系列A、系列B、および系列Cについて研究を推進した。 ヘルバルト派教育学の受容と展開に関する研究(系列A)については、昨年度に引き続き、同教育学受容のプロセスについて、その導入が積極的に進められた北海道教育界を中心に実地調査を行った。特に、その中核を担った、北海道師範学校校長槇山栄治による同教育学の導入プロセスの詳細を捉えることで、道内での同教育学展開の実相を明らかにした。就学前の子供に対する教育観に対する同教育学の影響については、北海道師範学校での幼稚園教員養成においては同教育学の影響がみられるものの、幼児教育現場ではそれが断絶していることが明らかになった。 国語教育の成立と展開に関する研究(系列B)については、大正期の「国語教科書」における文学教材についての調査を進めるとともに、「国語科」成立に直截にヘルバルト派教育学が関わっていたことを明らかにした。また、就学前の子供に対する言語教育観に関しては、「童話」を媒介として、小学校国語教育との連続性が見られ、そこに同教育学が関わっていたことも明らかにした。 明治の言語文化に関する研究(系列C)では、昨年度に引き続き、文学作品、特に「美文」に対する青年の嗜好を明らかにするとともに、国定教科書所収文学教材の子どもの嗜好調査分析を通して、「情」に対する意識形成の様態を明らかにした。
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