最終年度の本年は、3年間の研究のまとめとして、次の2点について研究を行った。 1.教育システムの管理と決定に関する新たな議論の分析 従来行われてきた地方分権化政策や学校自治の推進策に限界をみてとり、伝統的な権限配分と組織の硬直したスタイルを根本から見直し新たな枠組みを提唱する議論が起こっていることに注目し、その契機となった下院報告書(『ピラミッドからネットワークへ:学校のための新しい構造』2011)を取り上げ分析した。そこでは、予算管理と評価の徹底というLOLF型の目標・成果管理の理論が貫かれているが、同時にトップダウンの行政システムからの本格的脱却をめざして、国の関与の縮減と地方公共団体への主導権の移行、ならびに関係者との協働が明確に打ち出されており、アカウンタビリティと教育改善サイクルの舞台を学校と地区に移すという方向性が読みとれた。特に教育長職の新設、校長への教員評価権移行は今後の行政とアカウンタビリティのシステムを決定づける画期的な構想であり、そこに同時に学校の内部・外部評価の重要性が位置づけられていることを確認した。 2.以上を国際的動向に位置づけるために、教育改善のサイクルとアカウンタビリティにおける監査・評価の在り方に注目して主要国との国際比較を行い、10月の教育行政学会で共同発表した。また11月にアメリカ評価学会に参加し、国際比較に関する情報収取と意見交換を行った。 以上の結果、フランスの教育管理・運営は、学校の自律性に依拠しながら、確実なパフォーマンス向上のために、(1)教員集団の省察的自己評価、(2)行政当局の専門的な評価と支援、(3)それらをとりまくパートナーとの連携協力による教育活動の組織化、という三層を調和的に機能させる方向にシフトしてきている点に独自性があることを導き出した。
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