本研究では、キャリア発達、すなわち職業的(進路)発達にかかわる諸能力を育成する視点から、卒業時の企業就労を目指す特別支援学校(知的障害)高等部の職業教育(作業学習)について、「職業教育(作業学習)の学習活動表」の作成を試みる。軽度の知的障害のある生徒を対象としたA特別支援学校高等部の作業学習で実施されている、ものづくり(木工、陶芸などの製作・生産)の学習内容と流通・サービス(商品管理・販売・事務)の学習内容について、国立教育政策研究所生徒指導研究センターの作成した「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)で示された「職業的(進路)発達にかかわる諸能力」と国立特別支援教育研究所が作成している「知的障害のある児童生徒の『キャリア発達段階・内容表(試案)』による「各学部において育てたい力(観点)」との関連付けを行った。その結果、ものづくりの学習内容の他に、生徒の主体性に基づく、製作物を決めるための意見やアイディアの表出と話し合い、目標設定や作業分担の決定、共同・協力による作業活動、地域での販売活動、作業活動や製作物の出来映えに対する自己評価や振り返りなどを設定すると、ものづくりだけによる知識や技能や態度の習得だけでは培えない、意思決定能力や将来設計能力、人間関係形成能力の育成に直截的につながる。キャリア発達に基づく、目標設定を行うことでその目標達成に適切な学習内容を具体的に検討する機会になる、といった知見を得た。 併せて、特別支援学校高等部における、キャリア発達の目標設定を加えた、個別の指導計画の作成を試行的に進めたが、作業学習の目標設定にあたり、「発達段階・内容表」の「育てたい力」を指標とすることができた。キャリア発達に基づく目標の設定は個別の指導計画の中の年間計画や単元(授業)における具体的な学習内容を選定し、支援の手だてを明確にすることにつながる。また、作業学習課題における思考力・判断力の育成と支援の方法について、「清掃作業」の指導実践を進め、キャリア発達の視点から考察を行った。
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