今年度の主要な成果は次の二点である。 1) ベリー位相と並ぶ新しい量子ホロノミである螺旋状ホロノミについて、従来の断熱近似を超えてこれが存在することを確認する例を発見した。アハロノフ=ボーム系、すなわち磁束によって貫かれた円環状の軌道を運動する電子の量子的運動を、磁場の強度をパラメータとして考えると、系はこのパラメータに対し巡回的に振舞う。この従来から知られてはいたがその意味のはっきりとは認知されていなかった事実を出発点にして、この系に螺旋状ホロノミが存在することを示し、さらにパラメータが時間に依存して変化する場合、断熱近似を導入しなくとも解が厳密に求まり、それが断熱的な場合と本質的に同じものであることを示した。 2) これまでとは異なった新しい設定の系、特に量子情報科学に関連した「量子回路」について調べ、この中のもっとも簡単な「二ビット系」について、ベリー位相、および螺旋状量子ホロノミが存在することを確認した。これの物理的内実や意味については現在精査中であるが、多ビット系への容易な拡張の可能性や、解析的取り扱いの容易な有限次元ヒルベルト空間系である性質を考えると有望な研究対象と考えられ、引き続きの研究成果が期待できると考える。
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