本研究の目的は、超国家的な日本飲料企業の原料調達行動の変化とそれに対する産地システムの地域的連携関係の変化について茶飲料を対象に実証的に明らかにし、グローバルな食品企業行動のもとでの持続可能な産地システムのあり方について検討することにある。研究実施計画に基づき、平成23年度は、(1)日本の有数の茶産地である京都府宇治市において産地加工流通業団体等に対する実態調査と、(2)伝統的な茶産地を擁する韓国の茶産地と飲料業者の動向を把握するために分析を行った。 ウーロン茶飲料の開発と需要増大の下で大量の原料調達を中国茶産地に求めてきた日本の茶飲料企業は、消費者の安全志向の高まりに対応して日本国産の原料調達による緑茶飲料の開発と販売拡大戦略にシフトし、中国からの原料輸入を削減してきている。茶飲料産業の興隆の影響はわが国の伝統的な産地である宇治市においても同様であり、産地は茶飲料原料の増大による価格低迷のもとで、安全安心を謳う高級茶の開発・販売拡大ととともに、消費者を産地に直接的に呼び込んで「産地直売」や「茶ツーリズム」等の生産から消費に至る複合的産地システム形成を志向している。これは、昨年度までの調査で明らかになった浙江省杭州市のの「龍井茶」ブランド産地と同様の対応であり、茶飲料産業主導時代の産地システムは生産から消費に至る複合的な茶産地システムの形成へとして現れているといえる。一方、韓国では、飲料消費の多様化と消費者の安全性志向に対応して、茶産地は多様な茶飲料や茶関連商品の原料生産と有機茶栽培に特化してきており茶産業の停滞傾向がみられる。この背景には中国・日本と比較すると茶文化の広がりが弱いことがあると考えられる。このことは、茶飲料産業主導の時代の産地のあり方として複合的産地形成の志向がありながらも、それが持続可能となるためには、茶文化の広がりが必要という本研究の仮説を裏付ける含意となっている。
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