日本では、盲導犬をはじめとする補助犬の数が不足している。これらの補助犬の繁殖には系統(血統)を重視する必要があるため、今後、地球レベルで優秀な犬の精子を導入し、系統立てて繁殖を行うことが必要である。そのためには、犬の凍結精液技術の確立が不可欠である。 今回の研究では、犬精液銀行の設立を目指した実用可能な凍結精液作成技術の開発、すなわち腟内授精でも受胎が可能な良好な性状が得られる凍結精液および雌犬への侵襲を少なくする非外科的な人工授精技術の確立を目的として様々な研究を行った。 その結果、犬の精液希釈液としては、卵黄トリス・フルクトース・クエン酸液が有効であり、この希釈液で作成した凍結精液においては外科的子宮内人工授精では高い受胎率が得られた。またこの時、凍結精液を48時間までであれば低温保存してからでも高い受胎率が得られる凍結精液が作成できることが明らかとなった。すなわち、遠方の国内または海外から精液を低温輸送した後に作成した凍結精液の使用も可能であることが明らかとなった。しかし、小動物用内視鏡(ファイバースコープ)を使用した経腟による子宮内授精法の技術開発のために、排卵前後の外子宮口と生殖道内の観察およびカテーテルの挿入が可能であるかどうかについての検討を行ったが、外子宮口にカテーテルが挿入できたものは、11頭中1例だけであったため、経腟による子宮内人工授精後の凍結精液の受胎性についての検討を行うことができなかった。今後は、外子宮口の観察可能範囲の拡大を視野に入れ、それを可能にする空気圧やカテーテルの開発などが必要であると考えられた。
|