研究概要 |
緑膿菌の抗菌薬抵抗性のメカニズムを明らかにする目的で、今年度はこれまでに明らかになっている抗菌薬抵抗性関連遺伝子間の相互関係について検討するとともに,緑膿菌のライフスタイルの変化と抗菌薬抵抗性の関連性を明らかにするため、Tn挿入変異株ライブラリーを作製し、新たな抵抗性関連遺伝子の探索を行い,下記の成果を得た。 1.PQS quorum sensing(QS)を担うautoinducer合成系オペロン遺伝子pqsA,pqsE,pqsRを欠失した変異株はいずれも親株に比ベカルバペネム作用後の生存率が2~5倍高く,抵抗性が上昇した。一方PQS QS制御因子をコードするvqsR欠失変異株はカルバペネム抵抗性が親株の1/10に低下した。vqsRとpqsA,pqsE,pqsRとの二重変異株はいずれも生存率が上昇し、vqsR変異による抵抗性の低下が抑制された。また,pqsAおよびpqsE変異はrpoN変異株のカルバペネム抵抗性を低下させる。このことから,vqsRはPQS系QS関連遺伝子の発現にネガティブに影響を及ぼしていると推察された。 2.緑膿菌標準株PA01株にminiTn5を挿入した変異株ライブラーを約8000株作製し,その中から14株の付着時MBC(MBCAD)が低下した株および11株のバイオフィルム形成時の抗菌薬抵抗性が低下した変異株を分離した。バイオフィルム形成時の抵抗性が低下した株は1株のみバイオフィルム形成能が低下しており、バイオフィルムの主要な菌体外マトリクス合成系オペロンに属するPS1J内の挿入変異であることが判明した。その他8種の遺伝子にはチトクローム系および電子伝達系を担うタンパクをコードするものが複数存在しており、酸化ストレスとの関連性が推察された。またライフスタイルの変換に関わるシグナル伝達系cbrA/Bのセンサー遺伝子cbrA変異株が2株含まれていた。さらにバイオフィルム形成能が親株レベルであり抗菌薬抵抗性が低下した変異株は浮遊時および付着時の抗菌薬抵抗性には影響を及ぼしておらず、また、逆に付着時抵抗性低下株はいずれもバイオフィルム形成能が低下していることから、バイオフィルムの抗菌薬抵抗性を担う遺伝子はバイオフィルム形成過程と強くリンクしており付着時および浮遊時の抵抗性とは異なったメカニズムが存在することが示唆された。
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