表皮の増殖・分化は多くの細胞成長因子により制御されており、最も重要なものはEGFファミリーである。我々が作製した表皮特異的HB-EGFノックアウトマウスは、外見は正常であるが創傷治癒が遅延し、HB-EGFは創傷治癒機転の早期に誘導される.ことを見いだした。皮膚悪性腫瘍形成においてもHB-EGFが重要な働きをしているのではないかと考え、化学発癌と紫外線発癌におけるHB-EGFの役割について明らかにすることを目的とした。テトラサイクリン誘導型HB-EGFトランスジェニックマウスを2種類(遊離型HB-EGFを発現するマウスと、酵素により遊離型に切断されない膜型HB-EG)を作製した。表皮特異的に発現誘導させるため、ケラチン5プロモーターTetOnトランスジェニックマウスを作製し、これらのマウスを交配し表皮特異的テトラサイクリン誘導型HB-EGFトランスジェニックマウスを作製した。このマウスを出生時から30週齢まで観察したが、ドキシサイクリン非投与では皮膚の明らかな異常は認めなかった。12週齢からドキシサイクリン配合餌に変更したマウスでは投与2週後頃より皮膚の肥厚がみられるようになり紅斑、鱗屑と過角化がみられた。組織学的検索では過角化、錯角化、表皮の肥厚と真皮内炎症性細胞浸潤が認められ、尋常性乾癬の病変と類似していた。50週齢まで観察したが皮膚癌は自然発生しなかった。さらにこのマウスを用いてTPAを用いた化学発癌について検討したところ、パピローマ、SCCともコントロールマウスと比較して早期に発生し、かつ発生数も多かった。以上の結果から、生体内におけるHB-EGFの過剰発現が皮膚悪性腫瘍の発生に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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