本研究では、遺伝子変異により蝸牛蓋膜の構成が変化するために発症する難聴に焦点を当て、新規遺伝子変異の探索とその臨床像との相関の検討を行うとともに、蓋膜を構成するタンパク質の組織内局在、またそれぞれのタンパクの相互作用について検討し、その難聴のメカニズムを明らかにする事を目的とした。 本年度は、蓋膜構成タンパクのひとつ、α-tectorinをコードするTECTA遺伝子についての変異解析を行い、変異部位やアミノ酸置換の違いにより聴力像や難聴の進行度合いに違いがあることが見いだされた。また、見いだされた変異の中には、10代では難聴が軽度であり主に中音域が障害されるが、加齢に伴い高音部においても正常人の加齢生変化を上回る聴力の悪化が認められる臨床型をとる家系が認められ、本遺伝子変異による難聴であると考えられた。また、優性遺伝形式をとる家系において、性差により難聴の発症に違いが見られ、女性では難聴の発症・進行が遅れるために遺伝子型と臨床型に性差が生じる可能性があることが示唆された。 加えて、蓋膜内においてα-tectorinと相互作用を持つとされるβ-tectorinをコードするTECTB遺伝子変異による難聴家系の探索を開始した。これまでに収集した4000例のDNAサンプルから、遺伝形式や臨床像から条件を設定し選出したサンプルを対象に直接シークエンス法により変異スクリーニングを実施、解析を行っている。
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