本研究では、遺伝子変異により蝸牛蓋膜の構成が変化するために発症する難聴に焦点を当て、新規遺伝子変異の探索とその臨床像との相関の検討を行うとともに、蓋膜を構成するタンパク質の組織内局在、またそれぞれのタンパクの相互作用について検討し、その難聴のメカニズムを明らかにする事を目的とした。本年度においては、蓋膜構成タンパクのひとつ、α-tectorinをコードするTECTA遺伝子についての変異解析を行い、変異部位やアミノ酸置換の違いにより聴力像や難聴の進行度合いに違いがあることが見いだされた。3家系から新規の変異を見いだした。ある変異においては、10歳代では難聴は軽度であり主に中音域が障害されるが、加齢に伴い高音部においても正常人の加齢生変化を上回る聴力の悪化が認められ、本遺伝子変異による影響と考えられた。また、優性遺伝形式をとる家系内において性差により難聴の発症に違いが見られる可能性が示唆された。 また、頻度について検討を行ったところ、139家系から5変異を同定した。日本人における頻度としては3.6%(5/139家系)であった。さらに聴力別に解析を行ったところ、中等度難聴(41-70dB)では9.6%(5/52家系)と非常に高頻度に認められることから、常染色体優性家系の中等度難聴では本遺伝子の関与が強く疑われることが示唆された。
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