研究概要 |
咀嚼機能の客観的評価法の確立は歯科医学上極めて重要である。従来の咀嚼機能評価は、咀嚼後の試料分析であって、機能動態として咀嚼運動を評価しているとはいえない。機能動態として咀嚼運動を評価する場合に、有効な指標の一つが運動エネルギー(W=1/2mv^2)である。下顎の質量(m)は歯の喪失や加齢により減少し、補綴装置の装着により増加する。咀嚼の速度(v)は、個人により異なるとともに、加齢や食品により変化する。すなわち、咀嚼を、下顎という特定の質量(m)を有する物体がある速度(v)で上顎に対して衝突を繰り返す運動であると仮定すれば、下顎の質量および咀嚼速度を測定することにより、咀嚼時における運動エネルギーが算出され、この運動エネルギーを指標とすることにより咀嚼運動を定量化することは可能であると考えた。 本年度はCT画像からヒトの下顎の質量Qのを計測するために、豚顎を応用してCT値-密度換算式を求めた。実験1では試料の体積・重量からCT値-密度に関する-次近似式[α]y=0.0095_x+1.05729(x:CT値 y:密度)と相関係数(r=0.97803, p<0.0005)が得られた.実験2ではブタの下顎ブロックのCT画像と式[α]を応用して,ブタの下顎ブロックの重量(以下,予測重量)を分析,算出するとともに,ブタの下顎ブロックの重量を実測し(以下,実測重量),ブタの下顎ブロックの予測重量と実測重量との相関の分析を行った.その結果,一次近似式[β]y=0.95908_x(x:予測重量y:実測重量)と相関係数(r=0.97803, p<0.0005)が得られた. 以上より,CT画像から下顎運動体の重量を測定しうる可能性が示された。(頼近繁、大川周治他:運動エネルギーを指標とした新しい咀嚼機能評価について-下顎運動体の重量測定法の検討-.明海歯学40、2011[査読有り、印刷中])
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