本研究は、労働者の働き方や生活習慣と心身症状発症との関連やそのメカニズムを、成人双生児を用いた縦断的研究によって解明することにより、職場における実効ある保健指導対策の確立に資することを目的とする。双生児研究法は、遺伝的に同一かつ幼少期(母胎内を含む)の環境を共有する一卵性双生児を対象とすることにより、曝露要因の影響を鋭敏に比較検討できる有力な研究方法である。 本年度7~9月にかけて、本研究への参加の呼びかけに応じた成人双生児約2000名に対し、郵送自記式質問紙調査を実施した。内容は基本属性(卵性を含む)・疾病の有無・生活習慣などのほか、労働に関する項目として、職歴・職種・雇用形態・労働時間・夜勤や不規則勤務の有無・職業性ストレスについて尋ねた。主要アウトカムである慢性疲労については、国際的に利用されているChalder Fatigue Scale日本語版(14項目)を用い、4件法56点満点で回答を得た。 慢性疲労の回答があった561人を解析対象とした。ペアの双方が回答したのは227組で、うち不一致なペア(ペアの一方が慢性疲労あり、他方がなしで、両者の得点差が7点以上)は52組であった。職業性ストレスのうち、過重労働を示す項目で慢性疲労との有意な関連が見られ、その関連には遺伝・環境要因の交絡がないことが示唆された。一方、仕事における自由裁量の多寡を示す項目では、自己裁量が大きいほど慢性疲労が起こりにくいという関連が見られた。この関連も交絡の影響がなかった。 労働に伴うストレスと慢性疲労との関連は、「ストレスを感じやすい人が慢性疲労にもなりやすい」といった遺伝・環境要因の交絡によるものではなく、直接的に影響を及ぼしていると考えられる。また、自己裁量を増やすなどの働き方の工夫によって、慢性疲労の予防効果が期待できると言える。
|