研究課題
基盤研究(C)
本研究の最終目標は、光合成微生物である好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusにH^+を還元してH_2にする酵素遺伝子を導入することによって、太陽光を当てれば光合成と同期して温泉水程度の貧栄養な条件下で、光合成微生物が水素を生産できる系を構築することである。そのためには、光合成による水の酸化機能を高めてH^+の放出速度を上げた遺伝子組換え体を宿主細胞にして、H^+を還元する酵素遺伝子を導入・発現させて、チラコイドルーメンに輸送させる必要がある。本研究では、まず、水の酸化速度制御のメカニズムを明らかにし、次に、他の生物由来の遺伝子を好熱性ラン藻で機能的に発現させ、チラコイド膜を通過してチラコイド膜ルーメンに輸送できる系の確立を試みた。水の酸化速度制御に関して最も効果的な段階は、光化学系II電子伝達系の最終ステップであるQ_AからQ_Bへの電子伝達であり、Q_Bの酸化還元電位を上げるように周辺アミノ酸を置換すると、Q_AとQ_Bの間の電位差が大きくなり、この電子移動が速くなるために、電子を引き抜く最初のステップである水の酸化速度が上昇することが分かった。一方、酸化側においては、水の酸化で生じた電子はTyr_Zを介してP_<680>に渡されるが、Tyr_Zと水素結合するHisの距離を長くする変異を施した光化学系IIでは、H^+放出と同期するステップの電子移動が遅くなっており、結果として水の酸化速度が遅くなっていた。以上の結果から、水の酸化およびH^+の放出速度は、還元側の電子の引き抜き速度のみならず、酸化側の電子移動速度に伴うH^+の放出・移動速度に大きく依存することが明らかになった。本研究によって、水の酸化を上昇させた組換え体を作製することができたので、これに他の生物由来の遺伝子を導入して発現させ、機能させたいチラコイドルーメンに輸送させる系の構築を試みた。安定に発現するプロモータを見つけ、輸送シグナルの下流にレポーター遺伝子を連結した組換え体を作製した。その結果、レポータータンパク質はチラコイド膜に挿入される時に切断され、構造を保持した状態でチラコイドルーメンに輸送されることを確認した。本研究によって、ラン藻を用いた水素生産系の基盤ができたので、実際にこの系を用いて次の課題としてH^+還元機能を付与することが次の課題である。
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