ハンディキャップをもつ人々との共生が真に実現するためには、「健常者」とされる人々がハンディキャップをもつ人々に対して、「高い位置から手を差し延べる」という関係では不十分である。両者を「強者・弱者」の関係と捉えるのではなく、真に対等な関係を築くことが必要である。日本の伝統社会においては、盲僧や鍼灸師など、視覚障害者に対する社会参加の道が開かれているが、これらの文化的伝統を、「共生」という側面から学術的に検討することは、ほとんど行われてこなかった。本研究は、日本の伝統文化の中で心身にハンディキャップをもつ人々が、地域社会の重要な一員として社会参加をし、共生してきた実像を学術的に把握することを目的としたものである。 盲僧による宗教活動と琵琶弾奏は古代に遡りうる歴史を持ち、また、国内広範囲に伝播した形跡が認められるものの、近現代における社会変化の中で、その活動は、九州地方に特化する傾向があった。この盲僧習俗は、昨年度までの調査により、筑前国(現、福岡県)を核とする九州北部圏域と薩摩国(現、鹿児島県)を核とする九州南部圏域とに区分されることが推定された。本年度の調査・検討によって、九州の盲僧習俗に筑前系(北部系)と薩摩系(南部系)が存在することはより明確になったが、さらに豊後・日向系(東部系)の存在を指摘することができた。ただし、豊後・日向系は筑前系との交流は乏しいが、薩摩系との交流が認められ、薩摩系一支流の可能性がある。盲僧習俗には、このような地域特性を包含しつつ、全体としては人々から崇敬の念をもって迎えられ、晴眼僧にはない盲僧独自の「泊り宿」が地域社会に根づくなどの共通性が認められる。この盲僧習俗には、「強者・弱者」の関係とは異なる、日本の伝統文化の中に息づく「共生」の思想を見出すことが可能である。
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