鉄粉の酸化に伴う付着作用を利用してアマモ種子を鉄粉で被覆した.酸化促進剤として硫酸カルシウム水和物、または海水を混入し、種子に対する鉄粉の重量比・(コーティング比)が0.0(種子のみ)~4.0までの鉄コーティング種子を試作した.鉄粉の付着に要する乾燥時間は、室温20℃下で1時間以内であればコーティング比によらず8割以上の発芽率が認められた.鉄コーティング種子を、水温10℃、光量100μmol/m2/s、日長12LDで通水培養した結果、コーティングしない種子と比較して培養期間が最大1ヶ月程度短縮し、出芽率も最大3倍程度向上した. 小型振動流水槽を用いて、砂面上に着底した鉄コーティング種子の安定性を解析した結果、コーティング比に関わらず、砂のシールズ数が0.02程度以上で発生する種子短径の最大13%程度の局所沈下が、種子の流失抑制に顕著に寄与することを見出した.鉄コーティング種子のシールズ数に、局所沈下による安定向上効果を付与した新たな安定指標によって、コーティング比によらず種子の移動限界条件が統一的に評価できた.同指標をもとに、アマモ場造成海域の底質中央粒径と有義波周期がわかれば、アマモ種子の最適コーティング比が決定できる. 天然のアマモ場が点在する福井県小浜湾をケーススタディとして、波浪流や底質の安定性を解析し、移動限界条件を満足し、かつ砂漣の波高がアマモ種子の短径以上まで発達する海域を種子の造成適地として、小浜湾における適地を選定した.その結果、小浜湾内の泊、勢浜、蒼島、大飯、赤礁周辺海域に鉄コーティング種子の播種適地が確認され、コーティング比が0.5、1.0、2.0、4.0に対して、各2ha、42ha、44ha、39haの新たにアマモ場造成が可能な海域が選定された.選定海域の多くはアマモ場が現存している海域の周辺に分布していた.
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