研究課題
平成22年度は、前年度に続き「誘引狙撃法による頭部被弾で瞬時に死亡したニホンジカ(以下シカとする)」「胸腹部への被弾や罠捕獲により、比較的ストレスが高い状態で死亡したと想定されるシカ」「罠で捕獲され高ストレス下にあると考えられたツキノワグマ」「傷病鳥獣救護の一環で捕獲・搬入されたタヌキ」などから多くの血液等のサンプルを採取し、各種の血液生化学性状値や血中コルチゾル濃度などを測定した(市販キットならびにELISA法を使用)。血液生化学性状や血中コルチゾル濃度については、低ストレス下でのサンプル(頭部狙撃により即死したシカから採取)も得られ、その測定値を基準として解析を進めた。その結果、巻き狩りや頭部以外の部位の狙撃、わな猟等によって死亡した個体との間で、血中コルチゾル濃度やCK等の値に有意な差が認められた。これにより、「餌により誘引された個体の頭頸部を狙撃する方法(シャープシューティング法)」は、被弾前のシカの警戒心を抑制するのみならず、被弾前後のストレスを著しく軽減させることが確認された。また、この手法を適用した場合、射殺個体の近くにいた個体の逃走も予防できることが行動学的に確認されたため、捕獲効率を高める効果を有することも明らかになった。なお、上述の「低ストレス下でのサンプル」から得た各測定値は、シカにおける標準値と位置づけることが可能である。そのため、これらの値はシカを対象とする臨床的診断の際のリファレンスとしての有用性も高いと考えられる。