今年度はこれまでの研究の過程で残された課題を整理・検討し、必要とされる資料収集と追加調査を行った。 母子世帯の母に対する就労支援については、地方自治体および委託機関に対して資料収集・ヒアリング・参与観察調査を行い、事業内容と具体的手法について分析を行った。昨年から引き続く課題として障害者就労支援・若者就労支援の実践の取り組みから学んだ結果、母子世帯の母に対しても、階層的・段階的な重層的就労支援(すぐに就労可能な層への職業紹介、技能習得を行えば就労可能な層への職業訓練、就労環境や対人関係を体得する中間的就労、健康管理・日常生活管理・自尊感情回復支援等)の必要性が明らかとなり、支援関係者および政策決定者と研究成果紹介・意見交換を重ねた。 諸外国の母子世帯政策の分析においては、ひとり親や生活困窮世帯に対する親支援(ペアレンティング)政策の動向および意義・問題点について検討を行った。日本への導入可能性を探るために岩手県で親支援講座を開催し参加者の変化測定等を行ったが統計的に有意な結果は得られなかった。諸外国の政策の動向分析では、就労支援機関などへの費用のかかる就労支援政策からワークショップ・カウンセリングなどを通したエンパワメント政策に回帰する傾向も見られたことから、日本ではまだ萌芽的なペアレンティング政策が今後普及していく可能性もあり、いっそうの研究蓄積が求められる。 国内の地方自治体調査および外国調査で明らかとなったのは所得再分配の必要性である。労働市場分析の結果、母子世帯の稼働収入は十分ではないものの他の女性や諸外国の母子世帯の母と比べて低くはなく、諸外国と比較した母子世帯の貧困率の高さは所得再分配の不十分さにあることが明白となった。児童扶養手当・生活保護による所得保障から就業支援という政策展開の問題性について地方自治体データの分析および国際比較研究で提示した。
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