本研究では、分子インテグレーション法を利用した細胞膜外から内に至る細胞内位置モニタリング材料の創製を目的とする。モニタリング材料として着目したのが数ナノメートルサイズで蛍光を発し、長期間の露光下においても蛍光安定性を有する量子ドットである。しかし、その表面は疎水基で覆われており水溶液中で使用するには表面修飾を行う必要がある。ここでは二種類の手法を検討する。一つは、生体分子が固定化可能な両親媒性のリン脂質ポリマーを用いる表面修飾手法である(A)。もう一つは、界面活性剤ミセルによる量子ドットの可溶化である(B)。 (A)法では、両親媒性のリン脂質ポリマー共重合を用いる表面修飾手法を用いて、量子ドットを内包し、表面に有機蛍光分子固定化部位を有する粒子を作製した。量子ドットと蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を起こす蛍光分子を粒子表面に固定化した。FRETは、二つの分子間の距離によって蛍光が変化する。共重合体にはカチオン性部位を含み、エンドサイトーシスの際に生じるpH変化(7.0から5.5)に対して、膨張・伸縮し、蛍光が変化する設計とした。この粒子を細胞培養液中に添加し、細胞内取り込みにおける蛍光変化を評価した。結果として、エンドサイトーシスのpH変化に対応した蛍光変化を観察することが可能であった。 (B)法では、マイケル付加反応を用いて、リン脂質モノマーとアルキルチオール化合物からなる界面活性剤のライブラリを構築した。表面張力測定より水中でミセルを形成していることが確認された。このミセルを用いて量子ドットを水中へ可溶化することに成功した。また、市販の界面活性剤よりもその可溶化能が高いことが分かった。表面がリン脂質で覆われているため細胞内のプローブとして用いることは出来ないが、非特異的なバイオ分子吸着が抑制されるためマイクロチップ流路などの流速可視化プローブへの応用が期待される。
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