過去の研究で鉄欠乏ラットの血糖値が、同系統のII型糖尿病モデルラット(GKラット)と同程度まで上昇することを観察した。これより本研究では、II型糖尿病の特徴であるインスリン抵抗性の惹起に関連するアディポサイトカインの変動を介して、鉄欠乏が生活習慣病の危険因子となる可能性について検討した。2009年度の研究では、GKラットにおける食餌誘導性鉄欠乏による耐糖能異常の促進が示された。鉄欠乏では、肝臓のビタミンA放出障害により代謝性のビタミンA欠乏状態を呈することが知られている。ビタミンAとその輸送担体は、ともにエネルギー代謝に影響を及ぼすことから、2010年度は鉄欠乏ラットと食餌性ビタミンA欠乏ラットの血中アディポサイトカインの変動を比較し、鉄欠乏により誘導される耐糖能異常の機構について検討を行った。鉄欠乏ラットでは、インスリン抵抗性を促進する炎症性サイトカインの増加と、インスリン感受性促進因子であるレプチンとアディポネクチンの低下を観察した。これらは、鉄欠乏による脂質代謝の変動および生体内脂質過酸化の亢進を反映したものと考えられた。ビタミンA欠乏ラットでは、TNFαの増加傾向およびレプチンの低下が観察されたが、鉄欠乏群ほどの顕著な差ではなかった。インスリン抵抗性促進因子であるRBP4は、ビタミンAの利用低下を反映して、両群とも低値を示した。以上より、鉄欠乏およびビタミンA欠乏で、ともにインスリン抵抗性に関連するアディポサイトカインの変動がみられたが、その項目は完全には一致せず、それぞれが独自の要因により耐糖能異常を呈するものと考えられた。本研究から、糖尿病の栄養管理において、ビタミンAおよび鉄栄養の充足が重要であることが示された。
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