本研究の目的は、(1)日本語学習者が場面による言語形式の使い分けをどのように行っているかを明らかにする、(2)日本語母語話者と日本語学習者の場面による言語形式の使い分けの相違点を明らかにする、の2点である。これらを明らかにするために、本年度は、伝聞表現の「そうだ」とその類義表現の分析を行った。具体的には、日本語母語話者および日本語学習者に、第三者から得た情報を異なる対手に伝達するというタスクを行ってもらい、相手との親疎関係、文体、媒体などの変数から、「そうだ」とその類義表現の使い分けを分析した。 日本語母語話者の運用を分析した結果、「そうだ」は、文体と媒体によって、具体的な出現形が異なることが明らかになった。また、どのような出現形の「そうだ」も使用されない場合には、「(んだ)って」が、「そうだ」の代替表現として機能していることが分かった。一方、日本語学習者の運用を分析すると、中級レベルの学習者では伝聞表現そのものが負傷であることに加え、上級以上の学習者であっても、「(んだ)って」の使用が見られず、使用環境に合わせて言語形式を選択すること、つまり、レジスターの使い分けが十分に行えていないことが示唆された。 日本語教育の多様化が叫ばれる中、レジスターに関する教育は急務である。そのためには、レンマではなく出現形のレベルで、使用環境との関連を記述していく必要があると言える。
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