本研究は、今日の中東域内で展開されている対話・交渉・仲介の実証的分析を通して、同地域における安全保障をめぐる国家間の関係調整メカニズムを調査・研究することを目的とした。中東の国際関係を主権国家間の関係としてみれば、他の地域と同様に国益にしたがったリアリズム的言動が顕著である。しかしそれと同時に、アラブやイスラームといったアイデンティティや「大義」による外交が展開されているのも事実であり、また、社会運動や財団といった非国家主体を通した国家間関係の「多チャンネル化」も進んでいる。中東の国際関係は、国家主体によるリアリズムだけではなく、アイデンティティやアジェンダをベースにした非国家主体の営為によって一定の安定が担保されていることが明らかになった。
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