研究概要 |
初年度に行ったおもな研究活動は,(1)1990~2000年代にカナダ国内の教員組合が手がけた「学校の商業化」に関する調査報告書の分析,(2)教員組合がこのテーマに関心を持つようになった背景の解明,(3)カナダの学校で展開されてきた民間企業の教育活動の事例収集,に分けることができる。 (1)で分析対象としたのは,オンタリオ州の中等学校教員連盟による『オンタリオの学校における商業化』(1995年)と,カナダ教員連盟とケベック州の教員組合連盟などによる『カナダの学校におけるコマーシャリズム』(2006年)の2つの調査報告書である。ここからは,教員組合が,企業が学校と結ぶスポンサー契約を通して行う宣伝や,企業が作成して無償頒布する教材に見られるバイアスなどを学校の商業化現象と見なし,公教育の目的と相容れないと問題視していることが明らかにされた。 (2)では,この問題に取り組んできた,教員組合の研究員による著作を手がかりに,彼らの活動の背景を探った。カナダの学校の商業化は,80年代以来の教育予算の縮減を契機としており,企業が提供するコースやコンピュータ設備などを通して,教員の地位が不安定になりかねないという認識が教員のあいだで共有されていることが確認された。 (3)は,オンタリオ州の中等学校教員連盟や,州都トロントの教育委員会での勤務経験を持つ元高校教員数名への聞き取り等を通して実施した。企業の学校への関与として最も一般的なのは,特定のメーカーによる清涼飲料水の自動販売機の独占的な設置であるが,近年は,廊下などに設置する,広告掲載が可能な電子掲示板の導入を検討する学区も現れており,それに対しては,教員組合関係者のあいだで,デジタル時代の新たな広告テクノロジーとして認識され,懸念が広がりつつあるという。こうした現地調査により,学校コマーシャリズムの最新の動向が把握できた。
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