研究概要 |
2年目は,ケベック州政府がとる企業の教育活動の抑止政策をおもな研究対象とした。 同州では,消費者保護法が13歳未満の子どもを対象とした商業広告の禁止を,公教育法が宣伝行為をともなう企業の教育活動の制限をそれぞれ規定している。これらが意味するのは,たとえば企業から小学校への広告を含んだ教材の無償提供が違法行為とみなされるということである。 ところが,2010年5月に行った同州消費者保護局とケベック教職組合連盟への聞き取り調査で明らかになったのは,企業の宣伝活動の学校への侵入を完全に防ぐことは困難だという現実であった。実際に,2009年には,州内最大の都市モントリオールに拠点を置くプロアイスホッケーチームが,チームのロゴを含んだ言語や健康教育の教材を,ケベックの小学生と教師に向けてウェブサイトを通して刊行している。教育省と消費者保護局のこの事案への反応は対照的であり,前者が地元スポーツチームの社会貢献として許容したのに対し,後者は法律違反として処理した。ケベックは英語圏の他州とは異なり,子どもに向けた広告を有害と見なす考え方が社会のなかで支配的であったが,近年のテクノロジーやマーケティング技法の発達により,教育界には規範の緩みが生じつつあり,教員団体も危機感を持ってこの問題に取り組んでいることが確認された。この研究の成果は,日本カリキュラム学会大会(7月)で発表済みである。 このほかに,1990年代以降のカナダにおける学校の市場化の背景や議論と,この問題を教授内容とするメディア・リテラシー教材を分析・検討した論文「メディア・リテラシーと学校の商業化」をまとめ,日本教育方法学会編の図書のなかで発表した。
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