種々の微生物や食品成分に直接曝されている腸管上皮細胞(IEC)が、これらの因子に対してどのような免疫応答の機構を有しているかを分子レベルで解析することは、生体に有用または有害な菌体、食品成分を選別、解析する上で重要であると考えられる。本研究では『免疫機能に有用な食品の探索を目的とした腸管上皮細胞株の樹立と機能解析』を目的とした研究を行い、以下の結果を得た。 1、IECは生体内では未成熟の増殖型から成熟型に分化することから、申請者は『成熟型への分化誘導が可能なマウス小腸IEC株』を樹立し、解析を進めた。その結果、細胞の増殖抑制によりIECの分化マーカーの発現に加え、微絨毛形成の増加が見られ、増殖抑制により分化型に誘導可能である証拠を示した。さらに、分化誘導により菌体成分であるリポ多糖を認識する受容体群の発現が増加することを示した。 2、小腸、大腸では免疫機構に違いがあることから、申請者は『小腸、及び大腸より樹立した恒常的不死化IEC株』を樹立し、解析を行った。その結果、アルカリフォスファターゼやジペプチジルペプチダーゼIV、MHCクラスII分子の小腸、大腸IEC株での発現は、成体の小腸、大腸IECの発現パターンと一致している証拠を得た。さらに、微生物成分を認識するToll様受容体(TLR)の小腸、大腸IEC株での発現パターンは、成体の小腸と大腸の腸管上皮の発現パターンの特徴を有している結果を得た。中でも、リポ多糖の認識に関わるTLR4の補助受容体であるCD14の発現は、IEC株、成体IEC共に大腸側で特に高いことを示した。 3、上記のIEC株を用いることで、IECの免疫機構の制御に関与する食品成分を探索することが可能かを検討した。その結果、機能性食品成分であるスフィンゴ脂質の代謝産物S1Pが、TLRリガンドにより誘導されるサイトカイン産生に関与していることを示した。
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