シヌクレイノパチーの一つである多系統萎縮症(Multiple system atrophy : MSA)は、パーキンソニズム、小脳失調、皮質脊髄路および自律神経系の症状を伴う進行性の神経変性疾患である。病変部位におけるαシヌクレイン(αSYN)陽性のグリア細胞内封入体(Glial cytoplasmic inclusion : GCI)の出現はMSAの病理組織学的特徴とされるが、近年オリゴデンドログリアタンパクであるtubulin polymerization promoting protein (TPPP)がαSYNの凝集促進作用を有することが示されている。我々はGCI形成およびこれに続くオリゴデンドログリア変性の分子病態機序を明らかにする目的で、HEK293T細胞およびオリゴデンドログリア系のKGIC細胞にαSYNとTPPPを共発現させたモデルを作成した。その結果、TPPPはαSYNを特異的に凝集化させ、免疫沈降法でも両者が相互に結合することが確認された。さらにαSYNのセリン129リン酸化がTPPPによるαSYN凝集を促進させることを明らかにした。TPPP発現により両方の細胞体内にGCI類似のαsyn陽性細胞内封入体が形成されたが、うちKG1C細胞にのみアポトーシスが確認された。TPPP・αSYN共発現KG1C細胞にみられたアポトーシスはチューブリン脱アセチル化酵素阻害剤であるsirtuin2の選択的阻害剤で抑制された。これらの研究結果はMSAの分子病態に新たな理解をもたらすと同時に、治療への可能性を示唆するものであるといえる。
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