研究概要 |
歯根膜感覚は自作荷重装置を用いて上顎右側第一大臼歯を対象として測定し,皮膚感覚は医用知覚検査装置を用いて右側前腕内側部皮膚の電流知覚閾値を計測した. 感覚閾値の計測項目は,絶対閾値(感知可能な最小刺激量),差異閾値(絶対閾値の刺激量が増加したことを感知した際の刺激量),弁別閾値(差異閾値と絶対閾値の差)とした. 被験者に与える精神的ストレスはストループ試験とし,歯に加える物理的ストレスとしては被験歯に対して10kgfの荷重を1分間与えることとした,皮膚に対する物理的ストレスは,前腕内側部皮膚に貼付した検査用電極間中央の皮膚をアルゴメーターによって100~150kPa加圧して与えた. 安静時に27.5gfを示した歯根膜感覚絶対閾値はストループ試験後には有意に増加し(36.7gf),荷重負荷後にはさらに有意な増加(42.4gf)が認められた.差異閾値,弁別閾値に関しても同様の傾向を示しつつ有意な増加が認められた(差異閾値安静時:65.3gf,ストループ試験後:81.5gf,荷重負荷後:89.1gf;弁別閾値 安静時:37.7gf,ストループ試験後:44.8gf,荷重負荷後:46.7gf).これらの結果から,歯根膜感覚閾値は精神的ストレスあるいは物理的ストレスのいずれによっても増加する可能性があることが示された. 皮膚電流知覚閾値は安静時,ストループ試験後,および圧迫荷重後にそれぞれ19.1μA,19.6μA,および20.6μAを示し,それぞれの条件間で有意の差を示さなかった.電流差異知覚閾値も同様に各条件間において有意差を示さなかった(安静時:23.7μA,ストループ試験後:23.6μA,圧迫荷重後:24.6μA),これらの所見から,皮膚電流知覚閾値は歯根膜感覚閾値を変化させる程度の精神的および物理的ストレスに対しては恒常性を有することが示唆された. 本研究の結果から,体性感覚の認知閾値は部位によって外部ストレス(精神的あるいは物理的ストレス)に対する応答性が異なり,歯根膜感覚は皮膚感覚に比べてストレス下では鈍磨する変化を持つことが示唆された.
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