研究概要 |
低栄養やエネルギー欠乏時には、細胞は自らの構成成分であるタンパク質や細胞内小器官を分解する自食作用(オートファジー)によってアミノ酸やエネルギー源であるATPを産生することが知られている。近年、アルツハイマー病・パーキンソン病・虚血など様々な神経変性疾患にオートファジーが誘導されていることが報告され、注目されている。しかしこれらの病的状態において誘導されたオートファジーが、神経変性を促進するのか/遅延させるのか、あるいはどのようなシグナルで活性化されるのか、といった問題は長らく不明であった。我々は、δ2型グルタミン酸受容体の点突然変異による遺伝性小脳失調マウスであるラーチャーを用い、δ2型グルタミン酸受容体の活性化による持続的なイオン流入が細胞内ATPの低下・ネクローシスを引き起こすこと、細胞内ATPの低下がATPセンサータンパクAMPKのリン酸化を介してオートファジーを誘導すること、及びオーファジーを遺伝的に欠損させた際にラーチャーマウスにおける神経変性が促進されることをin vivoではじめて明らかにした(Nishiyama J.et al.,J.Neurosci.)。これらの結果はオートファジーがグルタミン酸興奮毒性に対する神経細胞の生存維持に関与していることを示唆しており、AMPKを介したオートファジー経路を修飾することで興奮毒性が関与する神経変性疾患の新規治療が開発できる可能性をはじめて示した点において、極めて重要な知見であると考えられる。
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