研究概要 |
1)アイロニーの受け取り方と、会話の間接性志向(Holtgraves,1997)やユーモア志向尺度(上野,1993;宮戸・上野,1996)などの個人特性との関係を調べた。その結果、ユーモア志向尺度の下位尺度である遊戯的ユーモアが高い人はアイロニーを字義的発話よりも肯定的に受け取る傾向があり、遊戯的ユーモアが低い人はアイロニーを字義的発話よりも否定的に受け取る傾向があることが示された。 2)アイロニーの受け取り方が、話し手が親友か(単なる)友人かでどのように異なるのかについて検討した。その結果、話し手が親友であった場合にアイロニーが肯定的に受け取られ、その度合いは冗談関係の認知(冗談を言い合える関係が成立していると認知している度合い;葉山・櫻井,2008)と相関を示すことが明らかとなった。 3)fMRI実験を実施し、アイロニーの受け取り方(皮肉らしさ、冗談性、ネガティブな気持ち)と相関を示す脳部位を検討した。その結果、皮肉らしさの度合いと相関を示す領域として右扁桃体が、冗談性の度合いと相関を示す領域として右前頭前野背外側部が同定された。ネガティブな気持ちの度合いと相関を示す領域は認められなかった。 以上より、アイロニーを肯定的に受け取るかどうかには、その冗談性が聞き手にどのように評価されるかが重要であること、また、前頭前野背外側部の関与から、冗談性の認知には実行機能が重要な役割を果たしている可能性を示した。さらに、扁桃体の関与から、アイロニーが聞き手の覚醒度を高める発話であることも示唆された。 4)アイロニーへの返答のしかたと性格特性との関係について探索的に調べた。その結果、性格特性が返答の選択に与える影響は文脈によって異なることが示唆された。
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