本研究は日台民間租税取決め9条に定める租税条約上の移転価格税制の両国における解釈・適用を課題の一つとしているが、その前提問題として、日本法上の移転価格税制を研究したところ、日本では、国際的移転価格事案に対して、租税特別措置法66条の4に定める移転価格税制ではなく、法人税法37条7項に基づく寄附金課税が多用されている傾向があることがわかる。そして、法人税法37条7項は沿革上、同法132条に定める租税回避否認規定から具体化されたものであるので、日本の上記傾向から、移転価格税制と租税回避否認規定との適用関係についての課税実務の見解が窺えると思われる。 こうした見解は、日台民間租税取決め9条自体の解釈・適用と直接には関連していないようにもみえるが、具体的な事案について同条ないし日台民間租税取決めにおける相互協議条項の適用を受けないとする点で、日台民間租税取決め9条の適用上、重大な問題を惹起している。なぜかというと、法人税法37条7項に基づく寄附金課税を行うと、そもそも日台民間租税取決めと日本国内法における移転価格税制を適用して、関連の二重課税を解消することができなくなり、日台民間租税取決めの締結目的を達成ことができないためである。 一方、台湾では、移転価格税制は従来、租税回避の否認規定の一つと位置づけられてきた。そのため、移転価格税制の解釈・適用も租税回避の一般的否認規定と深く関係しており、台湾でも、課税実務が日本の上記見解と同様な見解を採る可能性があるのではないかとの仮設を立て、台湾の移転価格税制の解釈・適用について研究を行った。その上で、論文にまとめて投稿して、現在、当該論文は既に査読を通過して、2022年5月に公刊される予定である。 今後は、これまで収集・調査した文献を活用し、引き続き日台間の国際的移転価格税制の課税実務上の問題と解決方法を研究していく予定である。
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