研究課題/領域番号 |
21H01660
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂入 正敏 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (50280847)
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研究分担者 |
大谷 恭平 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (20828280)
五十嵐 誉廣 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (70414555)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 耐食性表面 / 金属カチオン / 計算科学 / 電気化学 / 不働態皮膜 |
研究実績の概要 |
金属カチオンの防食機構を利用する鋼の耐食性表面処理として,亜鉛めっきと熱処理による亜鉛イオン供給層の形成とその耐食性評価を実施した。具体的には,膜厚を制御して亜鉛を電気めっきにより鋼上に形成後,低温短時間の熱処理により鉄-亜鉛合金層にし,その防食効果を電気化学測定等により調査した。その結果,鉄-亜鉛合金層はめっきままの亜鉛層より溶解速度が遅くなること,局部腐食も抑制されることを明らかにした。電気化学測定から,鉄-亜鉛合金層の腐食抵抗が亜鉛層より高くなる結果を得た。表面観察と分析から,形成した合金層の防食機構として炭素鋼を緻密な亜鉛の腐食生成物が覆うことが示唆された。 アルミニウムイオンに着目した研究として,炭素鋼をアルミニウムイオン等を含む溶液に浸漬して表面に保護性の皮膜を形成し,その後の熱処理の有無による耐食性の違いも検証した。浸漬腐食試験では試験前後の質量を測定した。腐食試験によって得られた腐食減量から熱処理や腐食抑制剤で事前に皮膜を形成した条件のほうが腐食減量は大きくなった。本研究の条件では熱処理をした方が事前に腐食抑制剤への浸漬の有無に関わらず腐食減量は大きいことがわかった。その理由とし本研究の腐食抑制剤の濃度で形成した皮膜は不完全であったため炭素鋼の腐食は促進したと考えられた。 鉄酸化物に対するESM-RISM計算を行うために必要な量子計算側の鉄原子および酸素原子と溶液中イオン間の相互作用パラメータを取得するため,逆スピネル構造をもつ酸化鉄の100面に対して希ガス原子をランダムに配置し,パラメータフィッティングを行った。得られたパラメータを用いて溶液中分子の溶媒和エネルギー計算値と実測データに乖離がみられた。また,亜鉛酸化物に対するESM-RISM計算に着手し,仕事関数や溶液中イオンとの結合挙動の解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,昨年度の研究により炭素鋼などの耐食性を向上することが明らかとなった,亜鉛イオンに着目して,電気めっきと熱処理の条件を検討することで耐食性を有し,亜鉛イオンを適切に環境に放出する表面の創成を目指して研究を進めた。その結果,電気めっきにより膜厚を高度に制御して亜鉛層を形成した後,鋼上に鉄と亜鉛の合金からなる亜鉛供給層を低温短時間の熱処理で形成することに成功した。この供給層を形成した鋼の腐食挙動を電気化学測定(定電位分極測定,動電位分極測定,交流インピーダンス測定)および浸漬腐食試験,各種機器分析法により調査した。その結果,鉄-亜鉛合金層はめっきままの亜鉛層より溶解速度が遅くなること,局部腐食も抑制されることが明らかとなった。さらに耐食性を向上させるために,電気めっきや熱処理条件の最適化が必要である。 亜鉛イオンと異なる金属カチオンに着目する新規な耐食性表面創製として,アルミニウムイオンと腐食抑制材を含む溶液に浸漬して表面に保護性の皮膜を形成し,その後の熱処理の有無による耐食性の違いを浸漬腐食試験により調査した。その結果,不完全な皮膜を形成すると腐食を促進することが明らかとなった。 第一原理計算からのアプローチでは,実用金属材料は不働態(酸化物)皮膜で覆われていることから,酸化物に着目して研究を開始した。鉄酸化物に対するESM-RISM計算を行うために必要な量子計算側の鉄原子および酸素原子と溶液中イオン間の相互作用パラメータを取得した。取得したパラメータには得られたパラメータを用いて溶液中分子の溶媒和エネルギー計算値と実測データに乖離があるが,亜鉛酸化物に対するにつていも必要なパラメータ取得を開始している。 このような状況であるため,現在までの進捗状況としておおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により炭素鋼などの耐食性を向上することが明らかとなった,亜鉛イオン以外に電気めっきが容易で耐食性があるニッケルにも着目する。電気めっきと熱処理の条件を検討することでさらなる耐食性の向上と,適切な量の金属カチオンを環境に長期間放出する表面の創成を目指す。 具体的には,種々の条件で金属カチオン供給層を形成した鉄鋼材料を,電気化学測定(動電位分極測定,交流インピーダンス測定)や浸漬試験,溶液分析,表面分析により腐食挙動と耐食性向上の機構を解明する。X線光電子分光分析法,オージェ電子分光分析法などの表面分析によるアプローチでは,機械研摩等で鏡面にした炭素鋼用い,詳細な結晶構造解析や深さ方向の高精度分析に挑戦する。計算科学によるアプローチでは,表面処理した実用材料を想定して,アニオン・金属カチオン種との結合エネルギーについて,昨年度までに引き続き,溶媒和理論の一つである参照相互作用サイトモデル(RISM)と任意の電極電位における第一原理計算を可能とする有効遮蔽媒質法(ESM)を組み合わせたESM-RISM法と分子軌道法を用いて溶液中イオンの精緻なモデル化を試みる。亜鉛酸化物に対するESM-RISM計算に着手し,仕事関数や溶液中イオンとの結合挙動の解析も継続して実施し,耐食性に及ぼす亜鉛酸化物の役割について機構の解明を目指す。 乾湿繰り返し腐食試験を実施し,大気腐食環境における形成した金属カチオン供給層の耐食性についても検討する。 以上の研究を推進することで,当初目的の達成を達成する。
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