研究課題
本研究は、ゲノム編集ツールとして用いられる 様々なCasタンパク質に高速原子間力顕微鏡(以下、高速AFM)を適用し、Casタンパク質がDNAを切断する様子を1分子イメージングすることで、その分子作動メカニズムを統一的に理解することが目的である。近年我々は、Casタンパク質の中で最も研究の進んでいるSpCas9に高速AFMを適用し、SpCas9が標的DNAを探索・結合・切断する一連の過程を1分子動画撮影することに成功した。この研究成果を基盤とし、様々な種に存在する多様なCasタンパク質、および、その巨大複合体に対し高速AFMを適用し、DNA切断ドメインの揺らぎ・構造変化・物性を網羅的に解析する。初年度は、Staphylococcus aureusに由来するSaCas9を用い、sgRNAやDNAのデザイン、および、SaCas9が機能できる高速AFM基板条件と観察バッファー条件の最適化を行った。その結果、SaCas9が標的DNAに結合し、切断する瞬間を捉えることに成功した。特に、標的DNAへ結合する瞬間に大きな構造変化を生むことを明らかにした。次年度は、これまでに得られたデータを詳細に解析し、論文として発表すると共に、別の種(Francisella novicida)由来のCas9やRNA切断酵素Cas13aに対して高速AFM観察を試み、Casタンパク質の核酸切断機構における統一的な分子作動機構の解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
SaCas9に対する高速AFM観察より、Casタンパク質単体では、安定な立体構造を形成せず、フレキシブルな動態をとることが分かった。さらに、Casタンパク質内部にRNAが結合すると、全てのCasタンパク質において、安定な立体構造を形成することが分かった。この結果は、RNAを介するCasタンパク質の立体構造の安定化には、RNAが重要であることを意味し、共通の分子作動機構と考えられる。各Cas9のDNA切断過程における高速AFM観察では、APTES-基板上のSaCas9-RNA-DNA三者複合体は、DNA切断ドメインがAFM基板側へ強く結合してしまい、DNAを切断する瞬間を頻度よく観察することはできなかった。しかし、チューブ内でDNA切断反応を開始させ、DNA切断後もなお、DNAに結合したままかどうかを調べたところ、SpCas9はDNA切断後もDNAと強く結合するが、SaCas9の場合は、DNAから解離することが分かった。この結果は、SaCas9はSpCas9より小型であり、Cas9内部にDNAと結合するサイトが少ないため、切断後のDNAと相互作用が弱くなったためだと考えられる。このDNA切断後にDNAから離れやすいという事実は、ゲノム編集において、新たな遺伝子の挿入技術(ノックイン)において有利であると考えられる。また、RNA結合状態のSaCas9が標的配列のDNAに結合する瞬間を捉えることに成功した。このとき、SaCas9は構造を大きく変え、2つのドメインに分かれ、DNAを巻き込むように結合することが分かった。さらに興味深いことに、標的DNAのPAM配列近傍にSaCas9が接近した時にのみ、構造変化を起こすことが分かった。これらの分子動態は、今後さらなるAFM基板の条件検討を行い、SaCas9のDNA結合における構造変化に由来するのかを確かめる必要がある。
次年度は、SaCas9 および FnCas9のDNA切断における構造変化の直接観察を試みる。1年目の結果を受けて、高速AFM基板の検討を行う。これまでは、DNAを固定するため、アミノシランを用いてマイカ基板表面を正電荷に修飾していたが、AFM基板がフラットであること、DNA切断ドメインが基板へ強く吸着してしまうことを考慮して、異なる手法でマイカ表面の修飾を試みる。特に、所属研究所内の高分子を専門とする研究者と共同研究を行い、Casタンパク質が機能できるAFM基板条件の再検討を行う。具体的には、ピラーアレーンを高速AFM基板へ適用し、Casタンパク質の機能性ドメインの動きは制限されず、DNA切断の瞬間を再現性良く捉えることを試みる。また、最近注目されているRNA切断Casタンパク質であるCas13aの高速AFM観察を試みる。sgRNAをタンパク質内部に取り込み、標的DNAを切断するCas9とsgRNAを用いてRNAを切断するCas13aのナノ動態を比較することで、切断する基質の違いが、Casタンパク質のどのような構造変化に違いを生むのかを詳細に議論する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Cell
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https://bioafminfi.w3.kanazawa-u.ac.jp/