研究実績の概要 |
本研究は、ゲノム編集ツールであるCasタンパク質に高速原子間力顕微鏡(以下、高速AFM)を適用し、Casタンパク質が標的DNA配列へ結合・切断する現場を1分子レベルで直接イメージングすることで、その分子作動メカニズムの統一的な解明を目的とする。さまざまな種に存在する多様なCasタンパク質に高速AFMを適用し、DNA切断ドメインの揺らぎ・構造変化・物性を網羅的に解析した。最終年度は、Francisella novicida由来のFnCas9に焦点を当て、sgRNAやDNAのデザイン、および、FnCas9が機能できるAFM基板条件と観察バッファー条件の最適化を行った。その結果、FnCas9は、他のCas9とは異なり、Mg2+が観察バッファー中に存在しないと、DNAへ結合することが不可能であることが分かった。さらに、アポ状態では、各ドメインがバラバラな状態にあるが、sgRNA結合状態では、楕円形にまとまった構造をとることが分かった。さらに、標的DNAに結合した状態では、切断ドメインがFnCas9の中心部に集合した3次構造をとることが分かった。また、この切断ドメインが開閉する動きを捉え、この構造変化が、FnCas9のDNA切断における機能動態であることが示唆された。3年間の研究により、SpCas9, SaCas9, FnCas9のDNA切断の瞬間に起こるドメインの構造変化を捉えることに成功した。DNA切断という共通の機能をもつ一方で、各タンパク質において異なる構造変化によりDNA切断が完了していることが分かった。本研究成果はCas9のDNA切断分子作動メカニズムの深い理解につながり,ゲノム編集技術のさらなる高度化を目指した基盤研究となることが期待される。
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