昨年度は主として、希少金属フリーのCu2ZnSnS4(CZTS)太陽電池を対象に、太陽電池特性、特に開放電圧とその光学特性との実験的な関係およびその理論的な解析を進めてきた。光学的特性については、R.Uweが理論的に提唱し、山口真史教授の実験的データにより検証されてきた、外部発光量子効率(ERE)と太陽電池の開放電圧ロスについての理論をベースに検討を進めた。外部発光量子効率については、蛍光寿命(正確には少数キャリ寿命)より見積もることができるが特殊な装置が必要であるため簡便に評価することができない。そこで、蛍光強度(photoluminescence強度)による、開放電圧評価についての検討を行い、理論的には蛍光寿命と蛍光強度が、弱励起の場合にも、強励起の場合においても比例関係を示すことを明らかにし、実験的にも蛍光寿命が蛍光強度に比例することを示した。また、CZTS太陽電池の蛍光スペクトルを詳細に検討することにより、バンド端および欠陥に起因するスペクトルを分解することに成功した。CZTSにおいては、Zn@CuおよびCu@Zn欠陥が大量に導入されており、その欠陥に由来した高濃度の欠陥密度が予想されているがそれを反映したものであると結論付けた。CZTSの蛍光スペクトルの議論は世界的に見ても不十分な状況であり、その観点からも有益な情報今回の研究で抽出すことができた。また、バンド端からの蛍光強度(対数強度)が開放電圧損失と比例関係にあることをしめした。しかしながら、その比例係数についてはEREで予想される値とかい離しており、今後さらなる検討が必要である。
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