Mitogen-activated protein kinase (MAPK) は広く真核生物に保存され、上流に位置する少なくとも2つのキナーゼ {MAPKキナーゼ (MAPKK) およびMAPKキナーゼキナーゼ(MAP3K)} とともにMAPKカスケードを構成し、分化・発生あるいは環境応答など様々なシグナル伝達系の中枢を担う。これまでに、抗細菌/糸状菌免疫における植物MAPK経路の重要性は確立しつつある。一方で、重要な植物病原の一つであるウイルス感染の場におけるMAPK経路の役割には未解明な点が多い。本研究は、植物プラス鎖RNAウイルスとベンサミアナタバコをモデル系に、植物-ウイルス間相互作用において植物MAPK経路の果たす役割の解明を目的とする。 植物では、MAPKカスケードの構成因子は複数の分子種ファミリーを形成し、一部冗長性を持ちつつ特異的なシグナル経路を形成する。本年度はウイルス感染に関与するMAPK経路を絞り込むため、まず遺伝的冗長性の比較的少ないMAPKKに着目した。VIGS法によりベンサミアナタバコのMAPKK遺伝子をそれぞれノックダウンした後、red clover necrotic mosaic virus (RCNMV、植物プラス鎖RNAウイルスの一種) を接種し、その蓄積量を指標に解析を行った。その結果、接種葉レベルでのウイルス感染に正に働くMAPKKを2つ同定することができた。一方で、ノックダウンによってウイルス蓄積量が増加するMAPKKは同定されなかった。またプロトプラスト実験において、RCNMV蓄積量はMAPKK阻害剤によって顕著に阻害された。以上の結果から、RCNMV感染において、少なくとも2分子種のMAPKKがウイルス感染に正に関わることが示唆された。
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