研究課題
遠赤色光の少ない照射光下では,水ストレスに関する植物の環境影響が小さくなることが示唆されている.本研究では,遠赤色光の少ない照射光下において葉の構造が変化することで,葉内の通水コンダクタンスが高まることが,水ストレスを小さくすると仮説を立て,遠赤色光の割合が異なる照射光に順化した植物の葉内の通水コンダクタンスを調べた.キュウリ実生を, 遠赤色光の割合を3段階に設定した光照射下で第2本葉展開まで育成した.光源にはLEDパネルを使用し,青色光,緑色光,赤色光の割合を太陽光とほぼ同じの30%,35%,35%とした.遠赤色光の割合は,遠赤色光を付与しない試験区,遠赤色光の割合を太陽光と同様(赤:遠赤色光比1.2)に設定した試験区,それらの中間にした試験区の3段階とした.キュウリ実生の第1本葉の通水コンダクタンスを,減圧チャンバー法を用いて計測した.通水コンダクタンスは遠赤色光の割合が高くなるほど小さくなる傾向が見られた.葉の構造に関するいくつかのパラメータとの相関を調べた結果,葉脈密度は遠赤色光の割合が高くなるほど小さくなる傾向がみられ,葉の通水コンダクタンスと相関があることが示唆された.照射光中の遠赤色光が形態変化を通して葉内のCO2輸送特性に及ぼす影響を,光合成総合解析システムを用いて調べた結果,遠赤色光による葉の形態変化と葉内のCO2拡散コンダクタンスとの間には明確な傾向が示されず,遠赤色光と光合成特性についても既往研究と異なっていた.本研究では,既往研究よりも相対湿度が高い環境条件で植物を育成したことから,このことが遠赤色光と光合成特性との関係に影響を及ぼした可能性が考えられた.
2: おおむね順調に進展している
葉の通水コンダクタンスと形態的特性の関係を調べた結果,葉脈密度が通水コンダクタンスと相関があることが示唆された.葉脈密度を画像解析によって評価する方法を確立できたことから,反復実験によって通水コンダクタンスを変化させる形態的特性を明らかにできると考えられる.研究手法も含めて,今後の研究の推進方策が整理できていることから,おおむね順調に進展していると評価する.
今年度に確立した計測手法を用いて,通水コンダクタンスに影響を及ぼす形態的特性とストレス応答との関係を明らかにする.具体的には,異なる光質・湿度環境に順化した葉をストレス環境に移し,ストレス付与前後のガス交換特性を評価する.葉のストレス応答と形態的特性との関係を調べることで,ストレス応答に及ぼす光質・湿度環境の影響を明らかにする.光質がCO2輸送特性に及ぼす影響については,類似の研究が最近発表されたことから,研究計画を修正し,湿度環境との複合影響を調べる方向で検討している.
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