V-ATPaseは、ATPの加水分解エネルギーを回転運動に変換するV1部分と、その回転運動をH+(またはNa+)の濃度勾配エネルギーに変換するVo部分から構成される回転分子モータータンパク質/イオンポンプである。最近我々はクライオ電子顕微鏡を用いて、抗菌剤が結合した腸球菌V-ATPase全複合体の密度マップを得ることに成功した。本研究では、得られた構造・機能解析情報を統合することにより、①本酵素のNa+輸送メカニズム、②抗菌剤によるNa+輸送阻害メカニズム、③Na+輸送とH+輸送の分子メカニズムの違いを解明する。以下に本年度得られた研究成果の概要を記載する。 <1> 腸球菌V-ATPaseの構造解析---昨年度の研究により抗菌剤結合型V-ATPase膜部分の立体構造を分解能2.2Aで決定した。本年度は得られた構造を用いてMDシミュレーションを行い、aサブユニットに存在する細胞外へと続くNa+輸送路を明らかにした。 <2> 腸球菌V-ATPase変異体の機能解析と構造解析---得られた構造情報からNa+輸送に重要と示唆された残基の変異体を作製した。これらの変異体についてATPase活性測定と1分子回転実験を行ない、aサブユニットに存在する細胞内からのNa+輸送路を決定した。 <3> イオン輸送メカニズムの解明---上記で得られた構造・機能解析情報を統合することにより、①本酵素のNa+輸送メカニズム、②抗菌剤によるNa+輸送阻害メカニズム、③Na+輸送とH+輸送の分子メカニズムの違いを明らかにした。これらの成果をまとめた論文を投稿した。
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