研究実績の概要 |
背景と目的:ブルガダ症候群(Brugada syndrome:BrS)は遺伝性不整脈であり、ヨーロッパ人と比較してアジア人で有病率が高く、致死的不整脈事象が多い。主にヨーロッパ人集団においては、ゲノムワイド関連研究(GWAS)によって多因子疾患としての遺伝子基盤が明らかにされている。われわれの目的は、新規のBrS関連遺伝子座を同定し、その頻度と効果率を人種間で比較することである。 方法:日本人を対象としたGWAS(症例940例、対照1,634例)を行った後、日本とヨーロッパのGWAS(症例3,760例、対照11,635例)を人種横断メタ解析した。新規遺伝子座は、ヒト心臓におけるファインマッピング、遺伝子発現、スプライシングの定量的形質関連によって解析した。 結果 :日本人特異的GWASではZSCAN20近傍に1つの新規遺伝子座が、人種横断メタ解析では6つの新規遺伝子座を含む17の関連シグナルが同定された。17のリード変異の効果方向は一致しており(94.1%;P=2.7x10-4)、それらの対立遺伝子効果は人種間で高い相関を示した(P=2.9x10-7)。ヨーロッパ人のBrS GWASから得られた遺伝的リスクスコアは、日本人集団におけるBrSリスクと有意に関連しており(オッズ比2.12、P=1.2x10-61)、人種間で遺伝的構造が類似していることが示唆された。機能解析の結果、CAMK2Dのリード変異は、代替スプライシングを促進し、その結果、カルモジュリンキナーゼII-δのアイソフォームスイッチを引き起こし、炎症・細胞死のパスウェイを促進することが明らかになった。 結論:本研究は、BrSの根底に潜在する病因に関与する新規の感受性遺伝子座を示した。臨床症状や疫学所見に人種差はあるものの、BrSの多遺伝子構築は人種を越えて共有されていた。
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